「ただの便秘」と思う前に
― 猫の巨大結腸症
ネコちゃんにとって理想的なトイレの数は、何個でしょう?
答えは、「飼っているネコちゃんの頭数+1個」。1匹なら2個、2匹なら3個です。
「1匹に1個で足りるでしょう」と思われた方、多いかもしれません。ところがトイレが足りなかったり、落ち着かない場所に置かれていたりすると、ネコちゃんは排泄を我慢してしまうことがあります。そして我慢は、便秘につながります。
今回は、その便秘の話です。
「最近、便が出ていない気がする」
「うちの子、便秘気味かも」「食欲が落ちている気がする」。
そんな様子の裏に、巨大結腸症(きょだいけっちょうしょう)という病気が隠れていることがあります。ワンちゃんよりも、ネコちゃんに多い病気です。
聞き慣れない名前だと思います。まずは、おなかの中で何が起きているのかからご説明します。
結腸は、便を送り出す通り道です
結腸は、大腸の大部分をつくっている腸のことです。
健康なネコちゃんでは、小腸から大腸に運ばれてきた食べ物の残りかすから、大腸で水分などが吸収され、固まった便ができます。そして結腸が縮んだりゆるんだりを繰り返す動き(蠕動=ぜんどう運動)によって、便は直腸から肛門へ運ばれ、体の外に押し出されます。
ところが、なんらかの原因でこの蠕動が弱まると、結腸が異常に広がり、たくさんの便が結腸に溜まったまま出せない状態になります。その状態が長く続くと、広がりきった結腸は縮む力そのものを失ってしまいます。これが末期の状態、巨大結腸症です。
こわいのは「悪循環」です
便秘が便秘を呼ぶ流れがあります。
- 慢性的な便秘になる
- 結腸の中にとどまった便から、さらに水分が吸収される
- 便が非常に硬くなる
- ますます出せなくなる(便秘の悪化)
- 硬くなった便が大量に溜まる
- 結腸の壁が伸びきって動けなくなる
- 結腸が縮む力を失う
- さらに便秘が悪化する……
「数日経てば出るから大丈夫」と見送っているあいだに、この輪が少しずつ回ってしまう。ここが、この病気のやっかいなところです。
こんな様子がみられたら
ご家庭でチェックしていただきたい点をまとめました。
- 排便の回数が少ない(何日も便が出ていないことがよくある)
- 排便のときのいきみが、以前より長い(しぶり)
- トイレに行く回数は増えているのに、便は出ていない
- 排便のときに悲鳴をあげる、吐く
- おなかを触られるのを嫌がる
- 体重が減ってきた
- 元気がなくなってきた
- 食欲が落ちている
ひとつひとつは「ただの便秘かな」と思えるものばかりです。けれども進行すると、結腸の中にどんどん硬い便が溜まり、末期の巨大結腸症へと進んでいく可能性があります。
便秘が続くようであれば、早めにご相談ください。
原因は、大きく分けて2つです
① 特発性(原因がはっきりしないもの)
ネコちゃんの巨大結腸症の多くは、はっきりした原因が特定できない「特発性」です。中年齢からシニアのネコちゃんに多く見られますが、生まれつき(先天性)のこともあり、何歳でも起こりえます。
② 二次性(ほかの病気が根っこにあるもの)
別の病気が原因になって、二次的に起こるものです。骨盤の骨折、神経の異常、肛門や直腸が圧迫されたり狭くなったりする病気、食事の変化、脱水、薬剤、ホルモンや血液の異常などが原因になることがあります。
なかでも当院では、腰の関節炎や腎臓病がかかわった便秘が多くみられます。
病院では、こんな検査をします
巨大結腸症のネコちゃんのおなかを触ると、結腸の中に硬い便がたくさん溜まっているのが分かります。
そのうえで、診断にはレントゲン検査が必要です。結腸の中にどれくらい便が溜まっているか、どれくらい太くなっているかを確認します。
このほか、肛門から指を入れて調べる直腸検査、超音波検査、血液検査、内視鏡検査などを追加で行うこともあります。
治療のすすめ方
二次性の場合は、原因になっている病気の治療を行います。
特発性の場合は、まず食事療法(自力で排便ができていれば、食物繊維が多いものなど)と、便を柔らかくするお薬の内服から始めます。
あわせて、整腸剤(善玉菌)にも便を柔らかくする働きが期待できます。
重度の場合には、肛門から指で、固まった便を取り出す必要が出てくることもあります。脱水があるときは点滴を行います。
食事やお薬で効果が出ない場合には、開腹手術で広がった結腸を切除することが必要になることもあります。
ご自宅でできること
1. 食物繊維の多いフードに変える
可溶性繊維は、水を含むとゲル状になって便を柔らかくする働きがあります。可溶性繊維が配合された便秘用の療法食がありますので、獣医師にご相談ください。
ただし、自力で全く排便ができなくなってしまった子には、食物繊維の多い食事を避けたほうがよいことが多いです。その子に合ったフードを、一緒に探しましょう。
2. 水分をしっかりとる
いつでも新鮮な水が飲める状態にしてあげてください。あまり水を飲まないネコちゃんには、ウェットフードなどで水分をとってもらう方法もあります。
3. ストレスを溜めない環境をつくる
冒頭のクイズのとおりです。理想のトイレの数は「猫の頭数+1個」。落ち着いて排泄できる場所に置いてあげてください。トイレを我慢することが、便秘につながることもあります。
あわせて、適度に遊んで運動させる、ゆっくり休める寝床を用意する。ストレスを溜めない工夫も大切です。
4. 普段の様子を気にかけておく
便秘でつらい思いをしたことのあるネコちゃんは、普段の食欲や元気に加えて、トイレの様子(排便の頻度、排便のときの様子、便の大きさや硬さ)も日ごろからチェックしてあげてください。
おわりに
猫の巨大結腸症は、はじめのうちは「便が出にくいけれど、数日経てば出ているから大丈夫」と見過ごされがちです。けれども放っておくと徐々に進行し、末期の状態になると治療が難しくなります。
一方で、早い段階で診断して治療を始めれば、進行を止めたり、遅らせたりできる可能性があります。
毎日の排便は、健康を知らせてくれる大切なサインです。「最近、便が少ないな」「トイレの時間が長いな」。そう感じたら、些細なことでもお気軽にご相談ください。
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※院長の診察・ご相談は別途診察料がかかります。診察をご希望の場合は予約制ですので、事前にご連絡ください。
※体重を測っただけでは、おなかの中の様子や便の溜まり具合は分かりません。体重測定はあくまで「相談のきっかけ」です。排便の回数や、いきみ方が気になるときは、その場でスタッフにお声がけください。診察が必要かどうか、一緒に考えます。