「わがまま」ではありません
― ワンちゃんの分離不安
お留守番の練習。ドアの外に出る時間は、まず「何秒」から始めるとよいでしょう?
答えは、1秒。たった1秒です。
「さすがに短すぎるのでは」と思われたかもしれません。でも、ここがこの練習のいちばん大事なところ。くわしくは、記事の後半でご紹介します。
「お留守番だけ、どうしても苦手」
- 「お留守番をさせると、ずっと吠え続けている」
- 「留守中だけ、家具を壊したりトイレを失敗してしまう」
- 「家族が外出しようとすると、落ち着きがなくなってしまう」
心当たり、ありませんか。
こんな様子が見られるとき、過剰な不安を感じている 分離不安(ぶんりふあん) という状態かもしれません。
今回は、分離不安とはどんなものか。そして、お家でできる工夫についてお話しします。
「わがまま」でも「仕返し」でもありません
犬はもともと、社会性が高く「群れ」で行動する動物です。ですから、ある程度「一人が苦手」「一緒にいたい」という気持ちは、自然なもの。
ただ、その不安が強くなりすぎると、お留守番の間ずっと吠えたり、トイレを失敗したりするワンちゃんがいます。
ここで、ひとつだけ覚えて帰っていただきたいことがあります。
留守中に吠えたり、トイレを失敗したりするのは、決して「わがまま」「性格が悪い」「留守番したことへの仕返し」というわけではありません。不安が強すぎてどうしていいかわからない、お留守番の間にパニックしています、という"心の叫び(問題)"と考えてあげてください。
分離不安かもしれない犬に見られる行動
気づける場面を3つに分けてご紹介します。
ご家族が出かける前後にする行動
- そわそわして落ち着きがなくなる
- つきまとって離れない
- パンティング(ハァハァと舌を出す呼吸)をしている
- 家を出たとたんに吠え始め、そのあと吠え続ける
留守番中に見られる行動(カメラで見てわかることも)
- ドアや柵、家具などを噛んだり壊そうとする
- ずっと吠える、遠吠えをする
- 自分の足を舐め、噛み続けるといった自傷行為をする
- ご飯を食べない、下痢や嘔吐などが見られる
帰宅後に気づくサイン
- 部屋が荒れている、家具やドアが傷だらけ。ペットシーツやスリッパをボロボロにしていることも
- トイレ以外の場所での排泄
- 足がよだれで濡れている、毛が抜けてしまっている
- ケージなどから脱走している、あるいは脱走を試みている
- 帰宅したご家族に、異常なほどしがみついて離れない
これらの行動が「留守番中だけ」「外出前後にだけ」起きている場合、分離不安が関係しているかもしれません。
分離不安なの? それとも、ほかの問題?
ここが大事なところです。
留守中に家の中の何かが破壊されていたり、大切なものがかじられたりしている。その場合でも、留守中の破壊行動が分離不安からくる行動ではなく、「退屈」「エネルギーが余っている」ことが原因で、結果的に家の中が破壊されているケースもあります。
また、留守中にトイレの失敗があった場合に、その背景に膀胱炎などの病気が隠れていることもあるかもしれません。
留守中に何らかの心配な行動、困った行動があったら、すぐに「分離不安」と思わず、まずは動物病院に相談しましょう。
- 病気の有無
- 生活環境
- その子の性格やこれまでの経験
などを私たちと一緒に整理しながら、分離不安かどうかを考えることが大切です。なにか気になることがあれば、病院に相談してくださいね。
自宅でできる対策
分離不安の改善は、一気に「これで治る」というものではありません。少しずつ「ひとりで過ごす時間も大丈夫」と教えていく、トレーニングが中心になります。
1.「一人になっても何も起こらない」と分かってもらう
在宅中に、あえて別の部屋に行きます。短時間から距離を取る。最初は数十秒などでも構いません。
少しずつ、見えない時間を伸ばしていく。そうすることで、"家族がいなくなっても、またちゃんと戻ってくる" という経験を積ませていきます。
2. 出かける前後はそっと
出かける時は、わざわざ声掛けはせずに、そっと出かけましょう。留守番は大したイベントではないと知ってもらいます。
ただし、急にいなくなることでパニックするワンちゃんもいます。その場合は、「この合図を送った場合はすぐ帰ってくるよ」というルールを教えた方がよい場合もあります。
帰宅したときも、あまり構わずに一旦落ち着かせてから。いつも通りのスキンシップをしてください。
特定の鈴などを鳴らしては1秒ドアから出て鈴に戻ってきて、「ただ今、いい子でした」とほめて、日に日に1秒ずつドアから出る時間を延ばす。
そうすると、特定の鈴が鳴った時は絶対にすぐ戻る、という合図になり、鈴を鳴らせば待てるようになってきますよ。
冒頭のクイズの答えは、ここから来ています。1秒からで、いいのです。
3. お留守番中の楽しみを用意する
お出かけ前に与えるフード(例えば朝ごはん)を少し減らし、そわそわする状態になる前に、朝ごはんの残りを入れた知育トイを与えて、遊びながら朝ごはんを済ませられるようにしてみてください。
知育トイで遊んでいる間に出かけましょう。
他にも、ガムや安全なおもちゃなど、時間をかけて楽しめるものを用意し、出かける前のそわそわ時間の前に与えて遊ばせるのも良いですね。ポイントは "夢中になって遊んでいる間に出かける" です。
おもちゃをうまく使うことで、「ひとりの時間=つまらない、不安」ではなく「ひとりの時間=楽しいことがある」と思ってもらえるようにできるといいですね。
他にも、安心できる寝床、落ち着ける場所をつくることもお忘れなく。
病院でできること
自宅でできるトレーニングでは改善しない場合、症状が重い場合には、不安を下げる薬(セロトニン再取り込み阻害剤)や抗不安効果のあるサプリメントを使って不安やストレスを軽減しながら、上記の行動療法を使って「分離不安」を治療する方法があります。
分離不安の治療は短期間で終わるものではなく、長い時間がかかることが多いです。すぐに効果が見られなくても、焦らずにゆっくりと治療をすすめていきましょう。
おわりに
分離不安は、ご家族にとってもワンちゃんにとっても、つらいと感じることが多いかもしれません。
しかし、少しずつ行動療法としてお留守番をすることに過度に不安を感じないようにするトレーニングをしたり、必要であれば薬物療法として抗不安効果のあるお薬やサプリメントなどを使うことで、お留守番がある程度できるようになって、犬も人も日常生活が楽になることも多いです。
「うちの子、お留守番が本当に苦手で…」。そう悩まれている方は、動物病院にご相談ください。一緒に解決しましょう。
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※体重を測っただけでは、お留守番中の様子は分かりません。体重測定はあくまで「相談のきっかけ」です。お留守番のときの様子が気になるときは、その場でスタッフにお声がけください。診察が必要かどうか、一緒に考えます。